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1月16日:「北斎とジャポニスム展」に行って来ました [その他]

先週、「北斎とジャポニスム HOKUSAIが西洋に与えた衝撃」展に行って来ました。
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美術館前に掲げられている絵は、北斎漫画の相撲取りの描写とドガの踊り子です。
看板の右上には、次のようなキャッチフレーズが書かれています。
       ↓      ↓      ↓
 「モネ、ドガ、セザンヌ・・・、みんなHOKUSAIに学んだ」

音声ガイドは、松重豊さんが担当しています。
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右側に書いてある「国立西洋美術館館長」という方が、今回の立役者らしいです。

この方の「メッセージ」を音声ガイドで聞いてみると、以前研究生だったときにジャポニスムを研究されたそうなのですが、今回は「(ヨーロッパの画家と北斎の作品の)どこが似ているかお楽しみください」というお話でした。

12月30日のことと記憶していますが、NHKEテレでもこの展覧会を特集し、この館長さんが出演していました。そして、ジャポニスムがヨーロッパの画家の作品に影響を与えたという例をいくつも出していました。

その時、この館長さんがあげた一例をお示しします。
180108ロートレック1_edited-300.jpg180108ロートレック1-180.jpg
左は北斎漫画の「足相撲」の場面です。右はロートレックのムーランルージュのポスターか?これを、「北斎に影響された」と紹介していました。

自分はLidoの踊りを見ただけですが、ダンサーの動きは実に多様で、ムーランルージュに入りびたっていたロートレックは、北斎漫画を意識しなくてもこのような構図を表現できたと思いますし、むしろ自然な「写実」に近いのではないかと思います。

しかし、今回の展覧会の図録巻頭の紹介文「ジャポニスムにおける北斎現象(シンドローム)」での館長さんの説明は、「北斎を参照したに違いない」というのです。
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類似を指摘するだけでなく「参照した」とまで主張することは、大変なことです。

番組ではたくさんの例をあげていましたが、この館長さんの解説はすべてが「・・・だと思います」「・・・でしょう」といった推測で、断定表現はゼロだったのが印象的です。

こちらは展覧会で展示されていた例。
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北斎の「富嶽三十六景」が、モネの風景画に影響を与えたとしています。

それだけではなく、スペインの画家ルシニョ-ルのこの絵にも影響したというのです。
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その「理由付け」は以下のようなものです。
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こうなるともうただ「似ている(かも?)」というだけで、自分でも根拠を説明できないのではないか?と思います。もはや、鳩山元総理の「トラスト・ミー[ドコモポイント]」の世界ですね。

ポール・セザンヌのサント・ヴィクトワール山の連作はよく知られています。
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館長さんは、これもまた北斎の「富嶽三十六景」に影響されたとしています。

音声ガイドでも述べられていましたが、セザンヌと日本美術の関係は不明瞭で、例えばセザンヌが浮世絵の収集をしたという事実もないそうなのです。

しかし館長さんは、「北斎の連作への意識はセザンヌにも強く働きかけたと考えられ」「さもなくばセザンヌの連作はなかっただろう」という意見です。
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その根拠としてこのあとに「(セザンヌの友人たちは)ほぼ全員が日本美術に強い関心を抱いていた。そういった中で連作について語られる機会も多かったろうし・・・」という説明が続いています。(文責「AM」となっています)

確かにそうだったかもしれませんし、そうでなかったかもしれません。

10年ほど前に南仏でサント・ヴィクトワール山を見てきましたが、現地でそういう話は聞きませんでした。

これらの絵画が日本の影響を受けたとする「根拠」を図録の説明文から読み取ると、

 1)作者が浮世絵など日本の絵を所有していた
 2)日本の影響を受けた画家と交流があった
 3)その時代までに、日本画に見られるような構図はヨーロッパにはなかった

などの点が主張されています。

一方こちらは、1月6日フジテレビ放映の「林修のニッポンのドリル」の一場面。
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「富嶽三十六景を真似て、あるものの三十六景が描かれた」というのですが・・、

それが「エッフェル塔三十六景」です。今回の展覧会でも、「建築中のエッフェル塔を富士に見立てる穿った着眼」と紹介されていました。
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絵の左下に押印がしてあっていかにも日本の版画を意識している風ですが、番組内で林先生は「実際に作者自身もそう言っているんです」と語っていました。これは林先生が、事実による裏付けの必要性を十分認識していたものと思います。

とにかく今回の展覧会では、西洋の絵画と北斎の絵が似ているものがたくさん出てきますが、似ていないものまでたくさん出てきます。その殆どが、裏付けもなく「・・・を思わせる」「・・・だろうか」「・・・類似している」という推定表現で語られています。

これはノルウェイの画家ペーテシェンの構図や表現についての説明です。
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一目だけでは似ているとは思い難い二つの画を並べて、「明らかに浮世絵を応用したものと見る事が出来よう」と述べています。「応用した」とか「出来よう」という婉曲表現を用いながら「明らかに」と言うのは、何か客観的な根拠があるのでしょうか?

北斎漫画と、ゴーギャンの「三匹の子犬のいる静物(部分)」
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図録では両者を並べ、「ゴーガンの描く子犬は(中略)、北斎の「三体画譜」の子犬と比較できよう」と書かれています。「だから何なの?[犬]」と聞かれたときの逃げ道に使えそうな表現ですが、文責は「AM」ではなく「HH」となっています。

この「HH」さんは、ドガの「競馬場にて」の画にこんな解説をしています180107ドガの競馬場にて2.jpg
「まさに遠近法の消失点の位置にいる跳ねる馬が、(中略)「北斎漫画」の(中略)騎馬を切り取って貼り付けたように見える[爆弾]

人馬を同様に表現する絵画や彫刻は、古来からたくさんあります。「北斎漫画を貼り付けたよう」との推察が図録に掲載されるとは、今回の展覧会の信憑性は大丈夫でしょうか?

今回の展示はこの種の主張が大変多く、もう「何でもアリ」という感じです。
推測の根拠が示されていたり、うなづけるものはきわめて稀です。

Evidenceに乏しく印象や想像力にたよる主張であればファンタジーということになりかねず、「STAP細胞はあります![ぴかぴか(新しい)]」みたいなことになってしまいます。

このようなことはフランスではどのように考えられているのでしょうか?ジャポニスムは主にフランスの潮流ですから、こうした指摘のフランスでの評価は知りたいところです。

そしてこの展覧会の主催者には、どんな人々がいるのでしょう?

すると展覧会の主催者は、日本の団体のみである事がわかりました。
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主催は、「国立西洋美術館」「読売新聞社」「日本テレビ放送網」「BS日テレ」です。

読売新聞社といえば、暴力、賭博、黒いウワサの何でもアリ!のあの球団の・・・[猫]
やっぱりね~[犬] わ・か・り・ま・す[黒ハート]

というわけで、日本と西洋の絵画の「どこが似ているか」に主催者側が注目した点だけはかなり楽しめた展覧会でした。国際的評価への言及は乏しいものでした。「影響された」とか「学んだ」とする根拠が示せないのであれば、類似を指摘しただけではないか?という評価になってしまいます。その点は、また機会があれば知りたいものです。

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